産業医

産業医とは

産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師を云います。
産業医学の実践者として産業保健の理念や労働衛生に関する専門的知識に精通し労働者の健康障害を予防するのみならず、心身の健康を保持増進することを目指した活動を遂行する任務があります。

産業医の条件

1996(平成8)年の労働安全衛生法の改正により「産業医は労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める一定の要件を備えた者でなければならない」と規定されました。(安衛法第13条第2項)

ここで定められている一定の要件とは以下の通りに定められています。

社会情勢の変化とともに目まぐるしく変わっていく職場環境で産業保健サービスも常に新しく高い水準が要求されます。
生涯研修の受講など資質の継続的な向上に努め、産業保健スタッフの中心となって活躍してもらうことが期待されます。

産業医の選任

事業者は、常時50人以上の労働者を使用するに至った時から14日以内に産業医を選任する必要があります。
また、産業医を選任した際は遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出る義務があります。
(安衛法第13条、安衛令第5条、安衛則第13条第1項・2項)
産業医に欠員が出た場合も同じく14日以内に選任し遅滞無く所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
(安衛則様式第3号による届出)

選任産業医数

労働者が多くなるほど産業医の業務量も増えますので事業場規模(労働者数)によって選任する産業医数や専属か嘱託か定められています。

※1 専属の産業医とすることが必要な事業場(安衛則第13条第1項第2号)
(1)労働安全衛生規則第13条第1項第2号で定める特定業務(有害な業務)に常時500人以上の労働者を従事させる事業場。
(2)常時1000人以上の労働者を使用するすべての事業場。
注:専属産業医=その事業場に所属していること(下段参照)

嘱託産業医と専属産業医

嘱託産業医とは

常時50人以上で999人以下の労働者を使用する事業場における産業医の選任形態は、嘱託(非常勤)で可能です。
ただし表2に揚げる有害業務に従事している労働者が常時500人以上になると専属産業医が必要となります。
わが国の産業医は大部分が嘱託産業医であり、開業医や勤務医が日常診療の傍ら産業医の業務を担っている場合が多く、地域社会を基盤とした、かかりつけ医機能の役割も兼ね備えた積極的な活動が期待されます。

500人以上の事業場で専属産業医が必要な業務(安衛則第13条第1項第2号):表2

専属産業医とは

常時1000人以上の労働者を使用する事業場と、表2に掲げる業務に携わる事業場で常時500人以上の労働者を使用する場合は専属産業医を選任する必要があります。
常時3000人を超える事業場は専属産業医を2人以上選任しなければいけません。
専属産業医とは、産業医としてもっぱらその事業場における産業医の業務に従事することができる者をいいます。

地域産業保険センター事業

原則として労働者数50人未満の事業場を対象に、身近なところで産業保健サービスを「無料」で提供する事業として、東京都内には18ヶ所のセンターが設置され、郡市区医師会が運営にあたっています。
サービス内容は、「健康診断結果に基づく医師からの意見聴取」、「脳・心臓疾患のリスクが高い労働者に対する保健指導」「メンタルヘルス不調の労働者に対する相談・指導」、「長時間労働者に対する面接指導」等です。

産業医の職務

産業医の職務の内容は健康障害の予防と労働者の心身の健康保持、増進に資することを目的とした広い範囲にわたるものです。
産業構造の変革、労働者の高齢化、IT技術の進展にともなう作業態様の変化、メンタルヘルス・過重労働問題等社会情勢の変遷に対応して業務の重点項目も変動します。

また、健康情報管理の問題や事業者の健康配慮義務は新しい法律の施行や裁判所の判例によって対策の在り方が変わってきます。
産業医の業務を実務分野別に整理しますと「1.総括管理」、「2.健康管理」、「3.作業管理」、「4.作業環境管理」「5.労働衛生教育」の「5管理」に分類することが出来ます。産業医は作業現場、関係法規、行政制度に精通して職務の遂行にあたることは当然ですが、産業医の能力や権限で完結できる業務と産業保健スタッフの協力無くしては遂行出来ない業務や、事業者の了解や協力を得なければ一歩も進まない業務があります。業種や事業場の諸事情等も勘案しながら適切に業務を遂行していきたいものです。

産業医 ~その役割を知っていただくために~

事業者の皆様へ

職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠なことから、上記のように常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならないこととなっています。

産業医は社員の味方?それとも会社の味方?

時々、「復職可の診断書を会社に提出したが、産業医に却下された」「産業医は会社の手先だ」などと言う話を聞くことがあります・・・。
主治医の「診断書」と産業医の「意見書」、会社はどちらを優先すべきなのでしょうか?
病院(クリニック)等の医師(主治医)と患者さんの間には治療契約が存在し、主治医は患者さんの生命と健康を最優先に治療を行います。
主治医が目指すのは日常生活レベルの回復、つまり退院して家で暮らせるようになることです。
産業医は社員との直接の契約関係にはなく、会社との業務契約を結び、会社が安全配慮義務を果たすお手伝いをします。
産業医が目指すのは就業可能レベルの回復、つまり社員が元気に働けるようになることです。
つまり産業医は社員の味方だとか、会社の味方だとか、そういう立場ではありません。
あまり「対立」や「中立」等の考えにこだわってしまいますと社員や会社への健康支援活動に支障が出てしまいます。

主治医は患者さんの利益を最優先する立場にあります。

患者さん側から「復職可能と書いて欲しい」とか「自宅療養が必要と書いて欲しい」と頼まれてしまいますと良識の範囲で、その意向を最大限に取り入れることが出来るような診断書を書くことがあります。
産業医は、健康上の問題を抱えた社員が安全に働くために、本人の状態・仕事の状況・就業規則などを総合的に判断して、会社に意見を述べます。
主治医が「復職不可」と診断した社員を産業医が「復職可」とすることはありませんが、逆に主治医が「復職可」と診断した社員を産業医が「復職不可」とすることはあります。最終的には産業医の意見を参考に、就業規則や判例に従って会社(人事担当者)が判断を下します。
復職のトラブルの大半は、職場復帰に関する認識の食い違いが原因です。
トラブルを避けるためには、休職している期間から定期的に産業医面談を行い、職場復帰の進め方について早い段階から話し合い、時間をかけて共通認識を作っておくと良いでしょう。

広尾タワークリニック 内科・消化器科・肝臓内科・乳腺、甲状腺外科 TEL:03-3498-6662 お問い合わせはこちら
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